■お酒の作り方

 


作り方。

 

現在の日本酒業界では次の3種類が主に行われています。


       生酛造り

       山卸し廃止酛造り(山廃造り)

       速醸酛造り

 

基本は、江戸時代に確立したとされる生酛造りの方法で、日本全国の酒屋は皆、もともと生酛造り(とその変形と応用)でお酒を造っていました。これが原型にあり、後の二つは近代の醸造技術の発展と、時代の要請から生まれた、その応用です。また前述の自然発生する菌を利用する作り方も主に生酛造りです。山廃造りと速醸作りでは、培養された菌を添加することがほとんどです。ここでは本来の作り方である生酛造りについて簡単にお話します。まず工程は大まかに7段階あります。

 

       精米(玄米を精製する)

       洗米・浸漬(お米を洗う・吸水させる)

       蒸し(お米を蒸して熱を通しα化させる。つまり食べられるようになる)

       麹造り(蒸し米に麹菌の胞子を振りかけ、蒸し米を菌床に麹菌を繁殖させる)

       酒母(酛(もと))造り(米の糖化・乳酸発酵と清酒用優良酵母菌の培養繁殖)

       モロミ造り(酒母を元に、さらに米・麹・水を加えながら、お酒を醸す)

       絞り(上槽(じょうそう))(もろみを布や圧搾機に入れ、濾過する)

 

 

精米


 精米は、玄米の胚芽や表面を削り取る工程。表層の脂質やたんぱく質、ミネラルなどを取り除き、デンプン質の割合をあげます。一般の飯米は精米歩合92~93%。だが酒米はそこからさらに70%から60%(吟醸)50%(大吟醸)まで精米します。削るほどに栄養はなくなるが、端麗な、一般にいう「きれい」な酒にしやすい。

 

洗米


 洗米は、お米を洗う作業。精白した米の表面の糠などを除去するための水洗い。その後浸漬。洗った米の中心部まで均等に水を吸収させために水に漬ける工程。浸漬時間は、米の品種、精米歩合、などによって違う。

 

蒸し


 蒸し。十分に吸水した米を水切りして蒸気で蒸す。米のデンプン質を酵素が分解しやすいようにアルファ化するのが目的。 蒸し米を元に、麹造り、酒母造り、もろみ造りへと三つの用途にそれぞれ使っていきます。

 

麹造り


 麹造り(製麹) 蒸し米に種麹を散布して、麹室という温暖な場所で約三日~四日ほどかけて麹菌の繁殖した米「麹米」を作る。麹は酵素でお米のデンプン質やたんぱく質を分解する。この麹が醸す甘みがお酒作りの肝となる。

 

酒母造り


 酒母造り(酛) 日本酒のアルコールは酵母菌の働きによって醸される。その酵母を蒸し米、麹、水を混合したものの中で大量に培養したものが酒母。お酒の質のよしあしを決める大切な要素。まず酵母のエサ(培養基)となる甘酒を作るために半切り(平たい桶)に蒸し米、麹米、水を仕込む。米がすっかり水を吸ったところを待って、蔵人全員で唄を唄いながら櫂棒で摺り潰していく。これの作業を「山卸し」や「酛摺り」という。

 ちなみに山廃造りは、この作業を廃止したので「山卸し廃止酛」(山廃造り)という。

 この半切り桶の摺った内容物を壷代(酛桶)に移す。これに暖気樽(湯たんぽ)を入れ温め、毎日出し入れを繰り返しながら、少しづつ品温を上げてゆく。この間に乳酸菌が繁殖し乳酸が生成され、その乳酸に守られながら麹の酵素の糖化作用で内容物が糖化され甘酒になってゆく。さらに品温を上げてゆくと、生成された甘みをもとに酵母菌が発生し繁殖する。繁殖下酵母菌は、アルコールと炭酸ガスを出し、酒母の表面はぶくぶくと湧き付く。二~三日ほどで湧き付きは収まり、落ち着いてくる。これで甘み、乳酸の酸味、アルコールの辛味、渋味などが調和してくると酒母の完成です。この後、品温を下げて使用時まで枯らしておきます。

 

醪造り


 もろみ造り。 出来上がった酒母をもろみ用の桶・タンクに移し、そこにさらに麹・水・蒸し米と重ねてゆく。これを四日間で三回繰り返す。これを段掛けと言い「添え・仲・留め」という。これは一度に大量の蒸し米や水を加えると酵母や酸が薄められ他の菌に汚染される可能性がある為、少しづつ、酵母の繁殖を即しながら増やす先人の知恵です。

こうやって仕込まれたもろみは日々櫂入れをしつつ、約二十~五十日程かけてお酒になっていきます。

 

上槽(絞り)

 

 十分な発酵を終え、出来上がったもろみは絞られ(上槽。袋に入れて重石をかけて絞る方法と大型圧搾機械で絞る方法と主に二種類ある。)ここでめでたく液体部分の清酒と固体部分の酒粕に分けられます。その後は、お酒の種類によってそのまま瓶詰めされたり、火入れ、濾過、割り水などの処理が加えられる場合があります。

 

 

造り方による酒質の違い

 


 先人の考えたこの生酛作りの肝は酒母~もろみへの発酵期間で、一度も純粋培養された菌の添加を行うことなく、条件と環境を整え、自然発生する菌を待って、菌と共にお酒を醸してゆくことにあります。

それに対して前述の「速醸造り」は、菌の自然発生を待つことなしに、全てを人為的にコントロールするため菌の添加を前提とします。

 酒母~もろみ発酵期間でいうと速醸造りが約1ヶ月~1ヵ月半。

 「生酛造り」は約2ヶ月~2ヵ月半ほど。約2倍の差が出てきます。この手間と時間の差、そして自然由来の菌か純粋培養菌かの差が、そのままお酒と酒粕の差になります。それは中身に含まれる有用菌やその酵素が段違いに違ってくるからです。

 

 また栄養価で見ても速醸造りに比べて生酛造りの方がアミノ酸やコハク酸、ビタミンなどの栄養素が多くなります。当然、うま味もそれに順次ます。また栄養価や健康に対する影響で見ると原料のお米の精米歩合も大切。お米のミネラル・ビタミン・植物繊維などの各種栄養素はお米の外側に多く含まれるため、削れば削るほどこの栄養素は無くなっていきます。

 

 この外側の栄養素は、お酒に醸すと雑味や苦味になりやすく、その為、「きれい」なお酒を、目指す中で、どんどん削られ、現在のお酒では標準で70~60%、すごいのは40~30%というのもあります。お米の半分以上を削ってしまうのです。お米を作るものの目線で見ると、もったないことこの上ない。という話しです。つまりお米は出来るだけ削らずに玄米に近い状態で使ったほうが、お酒の栄養素や健康効果は高いと言えるのです。それは酒粕もしかり。  

 

 「酒は百薬の長」と言われますが、それはまさに「生酛造り」だからこそとも言えるのではないでしょうか。しかし「速醸造り」に良い点もあり、味や香りが洗練された嗜好品を作る。という点があります。「山廃造り」は、これらの中間あたりに当たるでしょう。